職業病とは?
職業病について
仕事が原因で起きる病気や障害を職業病と言います。日本では労働基準法およびその施行規則という法律でその内容が定められています。業務中の事故や怪我などによる障害、有害物質を取り扱うことによって起きる病気(中毒や職業癌など)、身体に過重な負荷が加わり続けたことによる障害(腰痛や筋肉関節などの障害)、長時間過重な労働を続けたための障害(過労死や過労自殺)などがあげられます。
職業病は一般的に労働災害とされて、治療費などは100%労災保険から支払われ、医療費は自己負担がありません。また、療養のために休業が必要な場合には休業補償などが支払われます。労働災害と認められるためには労働基準監督署に申請をしなければなりません。
症状と治療方法
じん肺のレントゲン写真
石綿小体(綿棒のような形の物)
じん肺
長期間、粉じんが漂う職場で仕事をし続けることによって起きる肺の病気です。1000分の1ミリ単位の目に見えない粉じんが肺の奥底(肺胞、細気管支)に入り込むことによって肺が長い年月をかけて硬くなっていく病気です。
粉じんには石の粉(珪酸)や石綿(アスベスト)、珪藻土、セメント、金属の粉など多数の種類があります。
進行すると、肺が硬くなって呼吸困難(息切れ)となり、様々な合併症を引き起こします。
昭和35年に制定されたじん肺法では粉じん作業に従事した労働者はじん肺健康診断を受けることになっています。じん肺健康診断の結果、じん肺の程度を管理1、管理2、管理3イ、管理3ロ、管理4と分類し、管理4の人は症状がなくても療養を開始、管理2~管理3ロで合併症がある人は療養(治療)をすることになっています。
現在、原発性肺癌、肺結核、結核性胸膜炎、続発性気胸、続発性気管支拡張症、続発性気管支炎の6つがじん肺の合併症として認められており、これらの病気にかかっていると診断された場合には労働災害として取り扱われます。
じん肺は慢性進行性の病気であり、じん肺そのものは治ることがありません。じん肺と診断された場合、国は健康管理手帳を交付して指定医療機関で毎年じん肺健康診断を無料で行えるようにしています。定期的に健康診断を受け、病気の早期発見と治療を行うことが大事です。また、タバコは肺癌の発生リスクをさらに高め、他の合併症にも影響しますので、禁煙は絶対にしなければなりません。
色々な振動作業
手の筋肉が萎縮
振動障害
チェンソー、削岩機、ピック、グラインダー、インパクトレンチなどの手持ち式の振動工具を長年使用し続けることによって起きる病気です。
手指前腕の冷え・しびれ、レイノー現象(指先が寒冷などにより真っ白になる)、筋力の低下などの症状が出現します。進行すると睡眠障害、イライラなどの精神症状等も出てきます。
振動工具の相当期間使用歴があり、レイノー現象が認められるか、末梢循環障害、末梢神経障害、運動機能障害が全てある場合には振動障害と診断されます。
進行すると手指の筋肉が萎縮したり、麻痺が進行して肘の手術が必要になる場合もあります。
治療は振動工具の使用を中止し、手指および上肢の保温と筋力強化訓練などの理学療法を行い、同時にビタミン剤、血管拡張剤、消炎鎮痛剤による薬物治療を行います。
タバコを吸うと手指の症状を悪化させるので禁煙、手指などが寒冷にさらされない用に注意することなど、バランスの良い食事と規則正しい日常生活が療養には必要です。
機械、工具の改良や障害予防対策によって、かつてのような重症患者は減りましたが、建設現場や工場などで多くの振動工具が使われるようになり、新規に診断される方はいまだにいます。
上肢障害について
指曲がり症
上肢障害
上肢などに過度の負担のかかる業務によって、後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕、手および指に発生した運動器障害を中心とする疾病の総称です。
具体的には「頸肩腕症候群」「変形性肘関節症」「変形性手関節症」「腱鞘炎」「肘部管症候群」「手根管症候群」「変形性指関節症(指まがり症を含む)」などがあげられます。
これらの疾病は主に整形外科で診断・治療を受けます。
仕事が原因でこれらの病気になった場合には、業務上の疾病(労働災害、公務災害等)として取り扱われます。
一般の医療機関では診断・治療は行いますが、労働災害の適応かどうかの判断はしないことが多く、当クリニックでは職業歴などを聴取の上で仕事が原因か否かの判断をします。
指曲がり症
中年女性に多く、指先端の関節が腫れて変形します。年齢、性などの影響もありますが、指先の過重な負荷によっても進行すると言われています。
過労死などについて
過労死は、過度な労働負担が誘因となって、高血圧や動脈硬化などの基礎疾患が悪化し、脳血管疾患や虚血性心疾患、急性心不全などを発症し、労働不能または死に至った状態をいいます。
わが国では以下の疾患が過労死として取り扱われます。
- (1).脳血管疾患
- ア 脳内出血(脳出血)
- イ くも膜下出血
- ウ 脳梗塞
- エ 高血圧性脳症
- (2).虚血性心疾患等
- ア 心筋梗塞狭心症
- イ 狭心症
- ウ 心停止(心臓性突然死を含む。)
- エ 解離性大動脈瘤
過度な労働負担とは長時間労働、非常にストレスの大きい仕事など、明らかに労働負担が大きいと判断されるような場合のことを言います。現在の認定基準では、少なくとも発病する1ヶ月間の業務内容で過度な労働負担があった場合には労働災害(公務災害)と認められる場合が多いようです。
死なないまでも、発病と過度な労働負担に因果関係があると認められる場合には労働災害(公務災害)と認められます。
上記の疾病ばかりではなく、過度な労働負担で基礎疾病が悪化する場合は多数あります。例えば「気管支喘息」「胃潰瘍」「うつ病」などです。これらの病気も業務と因果関係がある場合には労働災害(公務災害)と認められる場合があります。
その他、有害物質を取り扱う作業、有害な作業環境で起きる病気、例えば職業癌など、職業病発生の可能性は私たちの労働環境のいろいろな場所に潜んでいます。